忍法帖シリーズで活躍した作家・山田風太郎さんが亡くなったのは
二〇〇一年。
一九二二年生まれで、享年七十九歳、死因は肺炎でした。
パーキンソン病(症候群で九五年に入院した)のほかに糖尿病の
持病があったそうです。
インタビュー形式の本『コレデオシマイ。』(角川春樹事務所、一九九六年)
の中で山田さんはこう話しています。
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はじめは糖尿病で入院したんだけど、パーキンソンだなんて、
自分では全然気がっかないでね。病院に入院するときに、
医者が 玄関まで迎えに来てくれて、僕を病室まで案内して
くれたんですよ。
そのときに僕の歩き方を見ていて、「山田さん、足を引きずっているね」
つていったんだね。
まさかパーキンソンだなんて、名前は知っていたけれど、僕は
自分では、歩き方が異常だなんて、思っていなかったもの。
すたすた歩いているっもりでおったの。 医者はよく見抜いて
いるんですよ。
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このように山田さんは医者に指摘されてパーキンソン病
であることが分かったのでした。
私もパーキンソン病を 長く専門にしているので、診察室に
入ってきた患者さんを 一目見れば、山田さんの先生のように
診断がつきます。
私にとって、それはなんでもないことですが、患者さん
にとってはそうじゃなく、驚きなんだなと、この本を読んで
いて思いました。
ひとは自分のことを一番よく知っているのは自分だと
思っていますから、他人から指摘されて自分のことを知るのは、
どちらかといえば不愉快なことでしょう。
病院内だけではなく、町を歩いている人の姿を見て、
「ああ、この人はパーキンソン病だな」と思ったことが
何度かあります。
これは医者ばかりでなく、患者さんの家族でも分かるようです。
いつも見ていてよく知っているから、「先生、この人は
パーキンソン病だと思うんですが、診てあげてください」
と言って、バス停で見かけた大を病院に連れてきたりします。
患者さんの家族にとって、たとえ見知らぬ他人でも人事
とは思えないのでしょう。
自分を客観視できないのは、何もパーキンソン病の患者さんに
限ったことではありません。
しかし、本人が自覚する前に、他人が発見してくれるというのも、
考えてみれば悪くないですね。
もっとも、パーキンソン病は癌のように早期発見しなければ
手遅れになる、というような進行が早い病気ではありません。
本人なり家族なりが気づいた時点で診察を受けても決して
遅くはないので、その点はご安心ください。
「芸術は爆発だ」でおなじみの岡本太郎さん
(一九一一~九六年、享年八十四歳。
急性心不全で逝去)も、パーキンソン病を晩年に患われたようです。
ひょうひょうと軽妙洒脱な山田風太郎さんと比べて、あふれる
ばかりのエネルギーがみなぎった方でした。
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